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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)5192号 判決

原告 増田俊造 外三名

被告 南池章伍 外五名

主文

原告等に対し

被告山田景吾は金二万四千九百九十一円七十銭

被告堀田豊次は金一万二千八百五円四十六銭

被告浅野すゑは金一万四千四百七十一円十二銭

被告福井兵治は金五万七千百二円八十五銭

被告中西荒治郎は金十七万四千六百六十二円二十五銭

被告南池章伍は金十万百四十一円六十四銭

を各支払え。

原告らの各被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は各三分し被告堀田、同浅野と原告ら間に生じた部分はその一を同被告らその二を原告の負担とし、被告山田、同福井、同中西、同南池と原告ら間に生じた部分はその二を同被告らその一を原告らに負担させる。

この判決は原告勝訴部分に限り原告に於て

被告堀田、同浅野に対しては各金四千円

被告山田に対しては金七千円

被告福井に対しては金一万八千円

被告中西に対しては金五万円

被告南池に対しては金三万円

の担保を供することを條件として仮に執行することが出来る。

事実

原告訴訟代理人は原告等に対し

被告南池章伍は金十四万千七百二十二円

被告中西荒治郎は金二十三万五千百八十二円

被告山田景吾は金五万七千九円

被告堀田豊次は金五万二千六百十八円

被告浅野すゑは金五万八千七百三円

被告福井兵治は金七万六千九百六十八円

を支払え。訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決と担保を条件とする仮執行の宣言を求めその請求の原因として

被告南池章伍は

大阪市東淀川区三津屋北通二丁目三十四番地の三十七、宅地二十三坪七合一勺

同所同番地の三十八、宅地十七坪四合七勺

同所同番地の三十九、宅地二十六坪六合九勺

合計 六十七坪八合七勺

被告堀田豊次は

同所同番地の三十二、宅地十六坪四合一勺

被告浅野すゑの前主浅野正一は

同所同番地の三十一、宅地十八坪三合一勺

被告福井兵治は

同所同番地の三十、宅地二十三坪九合九勺

被告中西荒治郎は

同所同番地の一、宅地七十三坪三合二勺

被告山田景吾は

同所同番地の三十四、宅地十七坪七合九勺

を夫々前所有者訴外中村光太郎から借受け右各地上に建物を所有している。原告等は昭和二十七年九月二十日右訴外人から本件各土地を買受け同年十月十七日所有権移転登記手続を完了し被告等に対する賃貸人たる地位を承継した。

本件土地は北大阪唯一の商店街で三津屋に於ける繁華街の中心でありいづれも店舗として使用せられ次の事由により地代家賃統制令の適用を受けない。

(1)  被告等は本件店舗を以て営業所とし奥の間、二階に至る迄商品置場、商業事務の執務、顧客の応接に使用し家屋全部を直接間接に店舗として使用しているから仮に直接、来客に接する部分が十坪以内であり或は店主、店員、従業家族が居住している事実があつても右は店舗維持の為に過ぎないから家屋全部を店舗と認むべきである。

(2)  店舗十坪以上、併用住宅としても店舗部分十坪以上のものは統制令第二十二条第二項第三号乃至六号に該当し昭和二十五年七月十一日以後は適用除外となつた。

(3)  統制令の適用を受ける併用住宅とは店舗部分と住宅部分を有する建物で使用者が同一人なる場合に限り然かも借家を対象としたもので持家の場合は除外されると解すべきである。

地代家賃統制令は戦後の経済混乱期に小住宅居住者の保護を目的に規制された臨時措置であるから本件被告等の如く好況下にある土地賃借人のみを保護し土地所有者に犠牲を強うることは家屋所有者は店舗部分を他に賃貸して統制外の賃料又は代償を得させ地主のみ統制に服する不条理を生ずる結果となるからである。

而して各被告等の本件土地上の店舗としての使用状況と統制令の関係は次の通りである。

一、被告中西

店舗部分は元飲食店として使用し現に珠算塾として使用する部分三坪六合、古物商として使用する部分四坪五合、美容院として使用する部分十一坪六合八勺、計十九坪七合八勺に及ぶが、更に昭和三十一年六月十九日建設省令第二十四号による地代家賃統制令施行規則の一部改正で同被告の全家屋建坪は三十坪以上であるから統制は全部撤廃となつている。

二、被告南池

三十四番地の三十九は訴外塩田保に賃貸し自ら使用していない即ち事業主と土地借主が異る場合であるから統制より除外され仮に併用住宅であつても昭和三十一年七月一日以降は統制がない。

三十四番地の三十七は訴外菊代に譲渡したので昭和二十九年九月分迄の地代を請求する。

三、被告山田

被告山田と同じく店舗部分を青果商に賃貸し事業主と土地借主が異るから制統がない。

四、被告浅野

全戸を訴外辰已某に賃貸し同被告は単に留守番として寄寓するに過ぎず同被告は事業主でないから統制外であり更にその店舗も八坪であるから法令の改正により統制から外された。

五、被告福井

全戸を訴外株式会社華に営業所として賃貸しているから全部店舗と認むべく事業主と土地賃借人が異ると共に法人に住居部分の存する筈なく従て全部統制令の対象外である。

よつて原告は本件土地の所有権を取得した後各被告に対し昭和二十七年十月十七日から同三十一年六月三十日迄の四十四ケ月15/31については併用住宅として地代家賃統制令の制限を受けるものとして昭和三十一年七月以降は統制令の適用なきもので比隣の地代や地価昂騰により前賃料は不相当になつたので昭和三十一年七月一日から向三十三年六月三十日迄の二十四ケ月は坪当金六十円昭和三十三年七月一日以降昭和三十四年五月三十一日迄の十一ケ月は坪当金九十円が相当であるから各被告に対し右割合により計算すると

被告南池の支払うべき地代は

昭和二十七年十月十七日より同三十一年六月三十日まで四十四ケ月15/31

(イ)  一ケ月     金七百七十三円

(ロ)  四十四ケ月15/31 金三万四千三百八十六円

昭和三十一年七月一日より同三十三年六月三十日まで二十四ケ月、一坪月額地代金六十円

(ハ)  一ケ月     金二千六百五十円

(ニ)  二十四ケ月   金六万三千六百円

昭和三十三年七月一日より同三十四年五月三十一日まで十一ケ月、一坪月額地代金九十円

(ホ)  一ケ月     金三千九百七十六円

(ヘ)  十一ケ月    金四万三千七百三十六円

合計金十四万千七百二十二円。

被告中西は(註……以下の番号は前記被告南池の内訳例による)

(イ)  金千二百八十二円

(ロ)  金五万七千二十八円

(ハ)  金四千三百九十九円

(ニ)  金十万五千五百七十六円

(ホ)  金六千五百九十八円

(ヘ)  金七万二千五百七十八円

合計金二十三万五千百八十二円

被告山田は

(イ)  金三百十円

(ロ)  金一万三千七百九十円

(ハ)  金千六十七円

(ニ)  金二万五千六百八円

(ホ)  金千六百一円

(ヘ)  金一万七千六百十一円

合計金五万七千九円

被告堀田は

(イ)  金二百八十七円

(ロ)  金一万二千七百六十六円

(ハ)  金九百八十四円

(ニ)  金二万三千六百十六円

(ホ)  金千四百七十六円

(ヘ)  金一万六千二百三十六円

合計金五万二千六百十八円

被告浅野は

(イ)  金三百二十円

(ロ)  金一万四千二百三十四円

(ハ)  金千九十八円

(ニ)  金二万六千三百五十二円

(ホ)  金千六百四十七円

(ヘ)  金一万八千百十七円

合計金五万八千七百三円

被告福井は

(イ)  金四百二十円

(ロ)  金一万八千六百八十三円

(ハ)  金千四百三十九円

(ニ)  金三万四千五百三十六円

(ホ)  金二千百五十九円

(ヘ)  金二万三千七百四十九円

合計金七万六千九百六十八円

となるので各被告に対し右金員の支払を求めるため本訴に及ぶと陳述し被告等の各抗弁事実を否認し被告中西の主張に対し偶々現在店舗として使用していない部分があつたとしても一旦店舗として使用し休業しているに過ぎない場合は当然店舗というべきであつてその設備構造が何時でも店舗として使用することを得る以上当然統制の対象から除外せらるべきものであると述べた。

被告等は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め答弁として原告主張事実中被告等が夫々原告主張通りの宅地を前所有者中村光太郎から借受けて建物を所有することは認めるがその余の事実は争う。

被告等と訴外中村との間に取りきめた賃料は被告南池は一ケ月四百四十円、被告中西は金四百円、被告福井、同山田、同堀田、同浅野は各金九十九円であつたが原告等は昭和二十九年一月十九日附を以て被告等に一躍約五倍に上る賃料を原告等が本件土地を買受けた昭和二十七年十月に遡つて請求して来た。

被告等の建物は店舗として使用されているが同時にその住宅にも併用せられ店舗面積は十坪以下であるから地代家賃統制令の適用を受けるものであつて原告の統制令を無視した値上通告は無効であり更に借地法第十二条によれば賃料はたゞ将来に向つてのみ値上し得るもので原告の請求する様な遡及は許されない。

仮に本件借地は統制令の適用がないものとしても一躍旧地主の地代の五倍から十五倍更に二十二倍強と僅な期間に値上をする如きは比隣の地代は十四円で貸借せられ租税額も幾許でもない事実から見ても権利の濫用という外ない。

更に統制令は借家の場合のみに適用せられ持家の場合を包含しないとする原告の主張は否認すると述べ

被告中西は

同被告は昭和二十年五月当時の所有者訴外矢森米太郎から本件家屋を借受け入居しその後所有者となつた訴外中村光太郎から昭和二十四年十月二十二日本件二棟の建物を買受け所有するに至つた。二棟とも住宅として使用し来つたもので昭和二十四年三月頃から同年五月末迄建物の一部で飲食店を経営したこともあつたがその廃業後は家具の物置場として使用し居り少くも同被告の所有となつてから飲食店として使用した事実はない。

更に原告の主張する如き古物商として又は珠算塾として或は之等類似の営業に使用し又は使用している事実は全く存在しない。現在店舗として使用しているのは美容院のみであつてその開業をしたのは昭和二十八年十二月末日で当時は約三坪に過ぎなかつたが昭和二十九年十二月末改装して現状になつた。従つて店舗としての床面積が十坪を超え統制令の適用なしとしても尠くとも昭和二十九年十二月以前はその適用を受けるものである。

更に本件土地中裏庭約十五坪は曽て土地所有者訴外中村光太郎所有の倉庫が存在し昭和二十三年八月被告中西に於て同人に破壊料金二千円を支払い代償として無条件右部分の使用を認められて来たものであるから右特約は当然原告が承継したものという可く右部分の賃料請求は失当である。

被告南池は

本件家屋は昭和二十四年四月頃訴外中村光太郎の債権者訴外某から買受け所有権を取得したがその一戸を訴外塩田保に一ケ月金千三百円で賃貸し来つている。しかし店舗として賃貸せるものではなく住宅として使用させているものであるから当然統制令の適用を受ける。

被告山田は

本件家屋に昭和二十年九月一日以来居住しているが昭和二十二年九月二十一日当時の所有者訴外中村光太郎から買受け所有権を取得した。当時地代は月六十八円であつた。昭和二十八年九月から同二十九年十月迄店舗の一部を区切つて青果商を営み更に昭和三十二年五月一日から同三十四年四月三十日迄訴外藪中栄三に店舗の一部一坪四合を貸与した事実があるけれども現在は何人にも貸与していない。従て統制令の適用がある。

被告浅野は

本件家屋は昭和二十二年九月訴外中村光太郎より買受け所有するに至つた。昭和三十年九月頃から同年十二月頃まで店舗部分を訴外辰己某に賃貸したことがあるけれども事業不振で右訴外人が廃業後同被告が自ら営業しているけれども併用住宅として当然統制令の適用を受ける。

被告福井は

本件家屋は昭和二十二年九月十七日当時の所有者訴外中村光太郎から買受け所有する様になつて昭和二十七年十一月二日から昭和三十二年七月三十一日迄訴外株式会社華に家屋の一部六坪九合を賃貸した事実はあるが全戸店舗ではない。昭和二十九年十二月以前は同被告が自ら零細商業を営んでいたので併用住宅として統制令の適用を受ける。

更に原告は同被告の賃借地を二十三坪九合九勺と主張するが裏庭約三坪の土地は三十年来露地となつていて同被告は右部分を使用せる事実なく前所有者中村とも右三坪については賃貸借契約を締結していなかつた。従て賃借地は二十坪九合九勺である

と夫々陳述した。

証拠として原告訴訟代理人は

甲第一、二、三号証の各一乃至八、甲第四乃至十五号証の各一、二、甲第十六、十七号証の各一乃至七を提出し当裁判所の検証の結果と鑑定人佃順太郎の鑑定結果(一、二回)及び原告本人滝畑直治、同沢野龍一の尋問の結果を夫々援用し乙号各証の成立を認めた。

被告等は

乙第一乃至六号証を提出し証人塩田保、同吉本貞治、同井上良幹の各証言と鑑定人近藤威の鑑定結果、被告本人中西荒治郎の尋問結果を各援用し甲号各証の成立を認めた。

当裁判所は職権を以て被告南池章伍の尋問を行つた。

理由

被告等が原告主張の各宅地を訴外中村光太郎から借受けて夫々建物を所有し店舗として使用していることは被告中西、同福井の賃借面積を除き当事者間に争なく原告が訴外中村から本件宅地を買受けて所有者となり被告等との宅地賃貸借関係を承継したことは被告等も明に争わないところである。

而して被告等は右店舗は同時に各被告が住宅としても使用している所謂併用住宅であつてその地代は当然地代家賃統制令の適用を受けるものであると主張するに対し原告は被告の建物は併用住宅であつても統制令の適用を除外される場合に該当すると主張するので先づその適用の有無を検討するに地代家賃統制令第二十三条第三項に基く建設省令で定めた同條第二項但書の併用住宅とは地代家賃統制令施行規則第十一條によつて七坪以下(昭和二十五年七月十一日から昭和三十一年六月三十日迄は十坪以下)の同項第四号乃至七号(改正前第三号乃至六号)の事業用部分と三十坪以下の居住用部分を有する住宅で

1、当該住宅の借主が当該住宅に居住する者であること。

2、当該住宅の借主が当該事業用部分で行う事業の事業主であること。

と規定しているので右規定に反する原被告の主張については敢てその判断を加える要を認めないが原告は右法に定める床面積について直接来客に接する部分が十坪(七坪)以内で店主店員従業家族が居住している事実があつても右は店舗維持の為に過ぎず更に被告等は所謂店舗部分の外奥の間二階に至る迄商品置場として使用し事務の執行顧客の応接に使用し直接間接店舗として使用しているから家屋全部を店舗と認むべきであると主張するが原告提出の証拠方法を以てしては未だ被告等が直接間接に全戸を店舗として使用しているとは到底認められないばかりではなく原告の如き見解を以てせば商人の日常の座臥はすべて店舗維持の為に帰着するから併用住宅という如きものは存在しないことになるばかりではなく、更に営業規模の小さい商人は往々その住宅部分に商品を置くことは有り勝であるけれどもこの様な場合でも一般にその部分を店舗又は倉庫とみなすことはないのであつて結局店舗として一般顧客に解放せられる部分ではなく一時的の使用と認められるからに外ならないからである。従て原告の右主張は失当である。

次に原告は統制令の適用を受ける併用住宅とは店舗部分と住宅部分を有する建物で両者の使用者が同一人であり且借家を対象とし持家の場合を含まないと解すべきであると主張するので按ずるにその前段の主張は施行規則の規定上正にその所論の通りであるが果して持家の場合は統制令の適用なきものと謂うべきであらうか。令施行規則第十條には「建物の賃借部分」同第十一條には「当該住宅の借主」という字句が使用せられ「建物(或は住宅)及びその敷地」という字句がないので原告の主張する如く「借家及び借家の敷地」に関する規定で持家の場合を含まないという解釈が一応成立する如く見える。然かし「借家の敷地の地代」とは如何なる場合を想定されるであらうか。更に地代家賃統制令第二十三条は明に併用住宅の敷地について地代の統制あることを規定しているのに委任命令たる建設省令がその適用を除外する如き規定を定め得るか否を考えれば原告主張の誤であることは多言を俟たず明であらう。即令第二十三条第二項但書後段に「第四号乃至第七号の用に供する部分と居住の用に供する部分が結合して併用住宅と認められる場合におけるその建物及びその敷地を除くものとする」と定め同条第三項に「前項但書に規定する建物の賃借部分及び併用住宅と認められるものの範囲は建設省令で定める」と規定してその範囲については建設省令(改正前は経済安定本部令)に委任したので令施行規則第十條第十一条は併用住宅の範囲(事業用部分につき七坪-改正前十坪)として床面積のみを規定すれば足りるので自ら「建物の賃借部分」「当該住宅の借主」という字句を使用したのは寧ろ当然で「当該住宅の借主」には併用住宅の借家人と併用住宅を所有する借地人の両者を包含し所謂地代は却つて持家の場合を原則とするものと謂うべく、従てこの点に関する原告の主張も失当である。

次に被告等は原告は旧地主訴外中村光太郎の徴収していた地代の五倍乃至数十倍の地代値上を求めるのは権利の濫用であると主張するか地代の値上は近隣の地代その他相場に不均衡を生じた場合許されるのであつてその値上率が旧地代に比して甚しい差があつたとしても客観的に値上が妥当である場合は許容せられるのであつて要は値上額が適正妥当なりや否に帰し強ちその比率のみによつて適不適を論じ権利の濫用であるとは謂い難いのでこの点の被告主張は理由がない。

よつて進みて各被告について各主張と抗弁並に夫々統制令適用の有無を考えるに

被告中西荒治郎

同被告が賃借する宅地が七十三坪三合二勺であることは当事者間に争ないところ同被告は内裏庭約十五坪に曽て原告の前所有者中村光太郎所有の倉庫が存在し昭和二十三年八月同被告は破壊料として金二千円を支払い取毀つた代償として無條件で右部分の使用を認められて来たので右特約は当然原告が承継したものであるから右部分の賃料請求は失当であると主張するがその旨の供述をする被告本人中西の供述部分は俄に信じ難く他に之を認むるに足る資料がないから採用し難い。

而して当裁判所の検証の結果によると現在同被告が美容院の店舗として使用する部分は八坪九合二勺、原告が珠算教場として使用するといゝ、同被告の否認する部分で尠くも住居部分と認められない部分三坪四合七勺、現在店舗として使用されていないが店舗としての構造を有する部分(原告が古物商として使用するといゝ同被告の否認する部分)四坪四合であることが認められ同被告が曽て飲食店を経営したことは同被告も認めるところであつて同部分が店舗の構造を有する以上偶々休業又は廃業したとしても同部分を住居部分に転用していない以上は店舗面積に計上するのが相当であるからその店舗としての面積は現在の制限七坪は勿論改正前の十坪をも超えるので併用住宅として統制令の適用はないといわなければならない。

更に同被告は美容院を開業したのは昭和二十八年十二月で当時は三坪の床面積で現状に改装したのは昭和二十九年十二月末であり従つて尠くともその以前は統制令の適用があつたと抗弁するが之を認むべき資料がないばかりか前記の通り同被告は曽て飲食店営業もなし店舗の構造を有する部分が十坪以上ある同被告については既にその取得の始めから統制令の対象外であつたと認めるのが相当である。

被告南池章伍

同被告が三筆合計六十七坪八合七勺を賃借していたこと、うち二十三坪七合一勺は右地上の建物と共に昭和二十九年十月訴外苗代某に賃借権を譲渡したことは当事者間に争がない。而して当裁判所の検証の結果によると同被告の現に所有する家屋の総面積は優に三十坪を超え殊にその一戸は訴外塩田保に賃貸しており同被告個人が使用する店舗部分は四坪七合強に過ぎないことが認められるが右の関係から同被告についても統制令の適用がない。

(同被告は訴外塩田に住宅として貸与したと抗弁するが証人塩田保の証言によると同人は本件賃借せる店舗で果物、菓子、塩干物を扱つていたことが認められるから偶々現在休業しているとしても店舗兼住宅として貸与したものと認むべきである)

被告山田景吾

同被告の賃借する宅地が十七坪七合九勺であることは当事者間に争なく当裁判所の検証の結果によればその店舗面積は五坪三合五勺で検証当時は同被告自ら使用しているものと認められる。原告は同被告は店舗を青果商に賃貸し事業主と土地借主が異ると主張し原告本人沢野龍一も右主張に符合する供述をするが検証調書には右主張に相応する記載がないから右供述部分は信じ難いけれども昭和三十二年五月一日から同三十四年四月三十日迄訴外藪中栄二に店舗部分を転貸したことは同被告の自白するところであるから右期間中は統制令の適用なく爾余の期間は併用住宅として統制令の適用を受ける。

被告堀田豊次

同被告の賃借する宅地が十六坪四合一勺であることは当事者間に争がなく当裁判所検証の結果によると店舗部分は四坪六合四勺で自ら使用しているものと認められる。右認定に反する原告本人沢野龍一の一時同被告が他に家屋を貸与していた旨の供述部分は其の期間等についても明にしないので信じ難く他に右認定に反する証拠がないから同被告も併用住宅として統制令の適用を受ける。

被告浅野すゑ

同被告が賃借する宅地が十八坪三合一勺であることは当事者間に争がない。原告は同被告は全戸を訴外辰己某に賃貸し同被告は留守番として寄寓するのみで事業主でないばかりか店舗面積も八坪で統制令の適用がないと主張するのが之を認むべき立証なきところ当裁判所の検証の結果によれば店舗部分は六坪六合五勺で同被告自ら使用していると認められるから同被告が自白する昭和三十年十月から同年十二月迄の三ケ月間のみ統制令の適用は除外され爾余の期間は全部統制令の適用を受ける。

被告福井兵治

同被告の賃借宅地を二十三坪九合九勺なりとする原告主張に対し同被告は右面積に含まれる裏庭約三坪は三十年来路地となつて居り同被告は使用したことなく前所有者中村とも三坪については賃貸借契約を結んでいなかつた従て借地は二十坪九合九勺であると抗弁するが之を認むべき立証をなさず成立に争のない甲第一号証の七によれば本件土地は二十三坪九合九勺として一筆の土地であることが認められるから右被告の抗弁は採用出来ない。

而して当裁判所の検証の結果によるとその店舗部分は七坪七合一勺なるところ、原告は全戸を訴外株式会社華の営業所として賃貸しているから統制令の適用がないと主張し同被告も家屋の一部六坪九合を昭和二十七年十一月二日から昭和三十二年七月三十一日まで訴外株式会社華に賃貸したと自白し(この点につき証人井上良幹は昭和二十九年十二月から賃貸していると証言するが被告の自白に照し信用出来ない)更に昭和三十一年七月以降は令施行規則の改正で制限坪数が七坪に変更せられたから結局昭和二十七年十一月以降は統制令の適用なく原告が買取後昭和二十七年十一月一日迄の約一ケ月余のみ統制令の適用を受けるものと解するのが相当である。

よつて進みて各被告の原告に支払うべき地代金の額に付考えるに被告山田、同浅野、同福井が各家屋を買取り本件宅地に付賃貸借契約を結んだのは昭和二十二年九月で被告南池は同二十四年四月被告中西は同二十四年十月であることはいづれも各被告の自認するところであるから停止統制額の適用なく原告が昭和二十七年九月二十日本件各宅地を買収して間もなく地代値上を要求したことから粉争を生じ爾来原告に対し地代を支払わす係争状態を続けていることは当事者弁論の全趣旨から認められるので統制令の適用ある併用住宅の令第五条第一項の規定による地代の停止統制額又は認可統制額に代る額は昭和二十六年九月二十五日物価庁告示第一八〇号(昭和二十六年十一月三十日物価庁告示第一九二号による改正)により固定資産課税台帳に登録された価格に千分の二、二を乗じた額と定められている。

一、被告山田、同堀田の地代。

従て前段認定の通り被告堀田は全期間に亘つて被告山田は店舗賃貸期間を除き各統制令の適用を受ける。

被告山田、同堀田の宅地価格は成立に争のない甲第二号証の一、二によれば昭和二十七年度は夫々金三万五千五百八十円、金三万二千八百二十円として登載せられているから被告山田の賃料は月金七十八円二十七銭、被告堀田の賃料は月金七十二円二十銭が夫々の統制額と認められる。

而して右告示は更に昭和二十七年十二月四日建設省告示第一四一八号を以て同年十二月一日から価格に千分の三を乗じて得た額に改訂せられたが地代家賃統制額といつても右は法の許容する最高を示したものに過ぎないから告示の改訂と共に自動的に地代家賃の値上を招来するものではなくこの場合に於ても借地法第十二條の適用を受け地主は統制額改訂による値上通告を行つて将来に向つて始めて新統制額による地代の請求をなし得るものと解するのが相当である。

而して右新告示の公布せられた直後原告は遅滞なく新告示による値上通告を行つたと認むるに足る証拠がなく右通告に当ると認められる催告がなされたのは成立に争のない甲第六号証の一、二、甲第八号証の一、二によると昭和二十九年一月十九日で右通告が被告山田に到達したのは同月二十二日被告堀田に到達したのが同月二十日であつたことが認められるので同日以降新告示による統制額に変更せられると認むべきところ昭和二十九年の山田の借地の価格は金五万八千七百円であること前記甲第二号証の一により認められるから同被告の統制地代は月額百七十六円十銭、同じく被告堀田は、金五万四千百円であること甲第二号証の二により明であり従つて同被告の統制地代は月額金百六十二円三十銭になつたと認むべきである。更に成立に争のない甲第十四、第十五号証の各一、二によると原告は被告山田、同堀田に夫々昭和三十二年五月二十一日附を以て値上通告をなし同書面がいづれも同月二十五日被告らに到達したことが認められ、成立に争のない甲第十六号証の一、六、七によれば昭和三十三年六月二十一日附を以て値上通告をなし夫々同月二十六日被告等に通告が到達したことが明であるから右通告書のうち統制令に違反する通告については何等効果を生じないと言うべきであるが少くとも原告が値上通告の意思を以てなした表示であるからその範囲内で右各通告は有効であつたと認むべく成立に争のない甲第十七号証の四、五によれば被告堀田の宅地の昭和三十二年度の価格は金六万五千六百円、昭和三十三年度は七万八千七百円であることが認められるから前記通告後の地代は夫々月金百九十六円八十銭、金二百三十六円十銭に変更され、同じく被告山田の宅地は昭和三十二年度金七万一千七百円、昭和三十三年度金八万五千三百円であるから夫々月二百十五円十銭月二百五十五円九十銭に変更されたものである。(被告山田については統制令の適用ある部分についてのみ)

二、被告浅野の地代。

被告浅野は昭和三十年十月から同年十二月迄訴外辰己某に店舗部分を賃貸したことを自白したので右の期間は建設省令で定められた制限に抵触し併用住宅として統制令の適用を受けないが右期間は僅に三ケ月でその期間内に原告から値上通告を行つたことを認め得る資料もないから同被告についても全期間に亘つて統制額による地代が適用せらるゝものと認めるのが相当である。

同被告についても原告はその所有となつて値上を要求した後は成立に争のない甲第七号証の一、二、甲第十二号証の一、二、甲第十六号証の一、四、によると原告は被告浅野に対し昭和二十九年一月十九日、昭和三十一年十一月九日、昭和三十三年六月二十一日の三回に値上通告を行い夫々その翌日の昭和二十九年一月二十日、昭和三十一年十一月十日、昭和三十三年六月二十二日に同被告に到達し、この通告も前認定通り値上通告としてのみ有効と認められ、成立に争のない甲第二号証の三、によれば昭和二十七年度の本件宅地の価格は金三万六千六百二十円、昭和二十九年度は金六万四百円、成立に争のない甲第三号証の六、甲第十七号証の六によれば昭和三十一年度の価格は金七万三千二百円、昭和三十三年度は金八万七千八百円であることが認められるので前記比率によると原告の買受後昭和二十九年一月二十日迄は月金八十円五十六銭、昭和二十九年一月二十一日以降は月金百八十一円二十銭、昭和三十一年十一月十二日以降は月金二百十九円六十銭、昭和三十三年六月二十三日以降は月金二百六十三円四十銭がその統制地代であること計数上明である。

三、被告福井の地代(統制に服する分)

前に認定した通り同被告は原告の所有となつてから幾許もなく訴外株式会社華に家屋の一部を貸与しその貸与を廃めた後は事業用部分の制限坪数を超えるのでその統制令の適用を受けるのは原告の請求する昭和二十七年十月十七日から同年十一月一日迄の十五日間であり成立に争のない甲第二号証の四によると被告福井の昭和二十七年度の宅地の価格は金四万七千九百八十円であることが認められるから右の統制地代はその千分の二、二に当る月金百五円五十五銭の額に当る金五十二円七十七銭である。

四、被告福井、同山田(統制令の適用なき分)同中西、同南池の地代

同被告等に対しても原告は成立に争のない甲第四、五、九号証の各一、二によると昭和二十九年一月十九日値上通告を行い被告福井及同南池には翌二十日、被告中西には翌々二十一日各通告が到達し同じく甲第十号証の一、二によると昭和三十一年十一月七日被告中西に値上を通告同月十八日同被告に到達、甲第十一号証の一、二によると同月九日被告南池に値上を通告翌十日到達し、甲第十三号証の一、二によると同月七日被告福井に値上を通告翌八日到達し更に甲第十六号証の一、二、三、五によると同被告三名に昭和三十三年六月二十一日値上通告を行いいづれも翌二十二日到達していることが認められ更に当事者弁論の全趣旨から原告は本件宅地買入直後に値上通告をなしたことが認められるところ同被告らのうち被告福井は訴外華に賃貸せる期間中は暫くおきその借地面積の総坪数も他の統制令の適用を受ける被告と大差なくその制限坪数を超ゆる事業用部分の面積は僅に七合一勺、然かも昭和三十一年六月二十日迄は十坪以下として当然に統制に服すべき地積であつたこと、同山田の店舗は本来統制に服すべき坪数であることも考慮しなければならない。

更に鑑定人佃順太郎(一、二回)同近藤威の各鑑定結果及び成立に争のない甲第二号証の一乃至八同第十七号証の一乃至七を綜合すると本件宅地附近は僅に昭和二十七年から現在に至る間に倍以上の地価値上りを生じ坪十四、五円の賃料から七、八十円の賃料を唱えるに至りたる反面証人吉本貞治の証言によれば坪六円位から十二円前後の賃料を受けている地主もあること、更に固定破産税課税台帳と一般市価との間に大凡三倍以上の隔りがあることが認められるので統制令の適用を受けない同被告等の賃料は前記各証拠並に前段認定の統制令の適用を受ける同一場所の爾余の被告等の統制賃料との振合等を綜合考慮するとき同被告等の支払うべき地代は統制額の三倍を支払はしめるのが相当と思料せられるので右により前段認定の各値上通告時を標準とし成立に争のない甲第二号証の四、五、六乃至八、甲第三号証の一乃至三、七、甲第十七号証の一、二、三、七によつて算定すると各被告の月額賃料は次表の通りである。

表〈省略〉

(備考)原告は被告中西については昭和三〇年昭和三一年度の課税台帳登載の価格証明書の提出をしないが成立に争のない甲第三号証の一乃至七、甲第十七号の一乃至七〇記載によると昭和三一年度と昭和三二年度の価格に変動がなかつたと認められるから同被告の昭和三一年度の価格は甲第十七号証の三の昭和三二年度の価格を標準とした被告南池のAは同被告が訴外苗代に一部借地権を譲渡以前の昭和二十九年九月迄の賃料 Bは以後の賃料である。以上認定するところにより原告に対し各被告の支払うべき地代を計算すると次の通りである。

(一)  被告山田景吾(統制に服する分)

1、昭和二七年一〇月一七日より昭和二九年一月二二日まで一五ケ月七日間 月金七八円二七銭

金一、一丸二円二五銭(銭以下切捨日割については一ケ月三〇日として計算……以下同じ)

2、昭和二九年一月二三日より昭和三二年四月末まで三九ケ月八日間 月金一七六円一〇銭

金六、八八五円五一銭

3、昭和三四年五月一日より五月末まで一ケ月間 月金二五五円九〇銭

金二五五円九〇銭

(統制に服さない分)

4、昭和三二年五月一日より同月二二日まで二二日間 月金五二八円三〇銭

金三八七円四二銭

5、昭和三二年五月二三日より昭和三三年六月二二日まで一三ケ月間 月金六四五円三〇銭

金八、三八八円九〇銭

6、昭和三三年六月二三日より昭和三四年四月末まで一〇ケ月八日間 月金七六七円七〇銭

金七、八八一円七二銭

合計金二万四千九百九十一円七十銭

(二)  被告堀田豊次

1、昭和二七年一〇月一七日より昭和二九年一月二〇日まで一五ケ月五日 月金七二円二〇銭

金一、〇九五円

2、昭和二九年一月二一日より昭和三二年五月二二日まで四〇月二日 月金一六二円三〇銭

金六、四九二円

3、昭和三二年五月二三日より昭和三三年六月二二日まで一三ケ月 月金一九六円八〇銭

金二、五五八円四〇銭

4、昭和三三年六月二三日より昭和三四年五月末迄一一ケ月八日 月金二三六円一〇銭

金二、六六〇円〇六銭

合計金一万二千八百五円四十六銭

(三)  被告浅野すゑ

1、昭和二七年一〇月一七日より昭和二九年一月二〇日まで一五ケ月五日 月金八〇円五六銭

金一、二二一円八〇銭

2、昭和二九年一月二一日より昭和三一年一一月一〇日まで三三ケ月二一日 月金一八一円二〇銭

金六、一〇六円四四銭

3、昭和三一年一一月二日より昭和三三年六月二二日まで一九ケ月一二日 月金一二九円六〇銭

金四、二六〇円二四銭

4、昭和三三年六月二三日より昭和三四年五月末迄二ケ月八日 月金二六三円四〇銭

金二、八八二円六四銭

合計金一万四千四百七十一円十二銭

(四)  被告福井兵治

1、昭和二七年一〇月一七日から同年一一月一日まで一五日 月金一〇五円五五銭

金五十二円七十七銭(注統制額)

2、昭和二七年一一月二日から昭和二九年一月二〇日まで一四ケ月一九日 月金三一六円六六銭

金四、六三三円六九銭

3、昭和二九年一月二一日より昭和三一年一一月八日まで三三ケ月一九日 月金七一一円九〇銭

金二三、九四三円五七銭

4、昭和三一年一一月九日より昭和三三年六月二二日まで一九ケ月一四日 月金八六三円一〇銭

金一六、八〇一円六八銭

5、昭和三三年六月二三日より昭和三四年五月末まで一一ケ月八日 月金一、〇三五円九〇銭

金一一、六七一円一四銭

合計金五万七千百二円八十五銭

(五)  被告中西荒治郎

1、昭和二七年一〇月一七日より昭和二九年一月二一日まで一五ケ月六日 月金九六七円八二銭

金一四、七一〇円八六銭

2、昭和二九年一月二二日より昭和三一年一一月一八日まで三三ケ月二八日 月金二、一七七円一〇銭

金七三、八八六円二六銭

3、昭和三一年一一月一九日より昭和三三年六月二二日まで一九ケ月四日 月金二、六三八円八〇銭

金五〇、四八八円〇四銭

4、昭和三三年六月二三日より昭和三四年五月末まで一一ケ月七日 月金三、一六七円一〇銭

金三五、五七七円〇九銭

合計金十七万四千六百六十二円二十五銭

(六)  被告南池章伍

1、昭和二七年一〇月二七日より昭和二九年一月二〇日まで一五ケ月五日 月金八九五円八八銭

金一三、五八七円五〇銭

2、昭和二九年一月二一日より同年九月末迄八ケ月一一日 月金二、〇一二円六〇銭

金一六、九三八円六八銭

3、昭和二九年一〇月一日より昭和三一年一一月一〇日まで二五ケ月一〇日 月金一、三一〇円四〇銭

金三三、一九六円八〇銭(注一部訴外苗代に譲渡後の地代)

4、昭和三一年二月一一日より昭和三三年六月二二日まで一九ケ月一二日 月金一、五八八円五〇銭

金一四、九三一円九〇銭

5、昭和三三年六月二三日より昭和三四年五月末まで一一ケ月八日 月金一、九〇七円一〇銭

金二一、四八六円七六銭

合計金十万百四十一円六十四銭

従て原告の請求は右認定の範囲内で正当として認容し爾余は失当として棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担に付民事訴訟法第九十二条本文第九十三条第一項仮執行宣言に付同法第百九十六条第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小野沢龍雄)

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